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230324 米国経済現状分析

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TVC:SPX   S&P500指数
普段あまり見ない物差しで現状の米国経済がどのような水準にあるのか確認してみた。
きな臭い金融不安のニュースが連日流れているが、仮に今後どんな流れになるにせよ、SP500のように超長期で見れば絶対にいつか上がるのだという安心感を持ちながら投資を楽しみたい。


1段目に水色線でSP500をBEA(米商務省)が提示する企業収益で割ったものを示している。この線で示すのは企業収益に対して現在の株価は割高なのか否かということである。
目安となるよう、この線のおよそ中心あたりににくるよう水平線を引いている。
この線を見ると2000年ごろのITバブルの時がいかに異常だったかというのがよく分かる。2022年初ごろも近年ではITバブルに次ぐ割高感だったことが見て取れる。
それが直近ではだいぶ落ち着き、もうじき中立ぐらいの水準に戻りそうなところまで来ている。
背景がグレーになっているところは過去のリセッションを表している。1973年より過去まで見てみると、リセッションを繰り返していたような時期でも、20年近くの超長期に渡って業績比で割高な株価を維持している時期もあったようだ。それを加味すると今の下がり具合でも「高すぎではなくなった」ぐらいの水準に来ているとは言えると思うので、自分の投資時間軸次第で買い増しを始めてもいい頃合いなのかもしれない。新たな投資ネタを探したければリンクの前回記事(CAGR一覧)を参考にされたい。
もう一つ参考にグレーの線でSP500をGDPで割ったものも重ねている。時価総額をGDPで割ったものはバフェット指数として知られる。完全にそれを描画することはできなかったがほぼ同じトレンドを描くだろうということで参考として載せている。この線と水色の線を見ると、2000年より前では比較的同程度の水準のチャートとなっていたが、それ以降の近年ではバフェット指数(もどき)が高めに出ていることが分かる。図示していないがこれぐらいの時期からアメリカの貿易赤字が膨れ上がっているので、輸出ー輸入の純輸出で評価するGDPは企業業績に対して小さくなってきているためと考えられる。iPhoneを中国で製造してアメリカに戻すなどのビジネススタイルが確立して輸入大国化してしまっている近年ではバフェット指数はもはやあまり参考にならないのかもしれない。
水色線に戻ってもう少し買い場となりそうな箇所を考察してみる。ブレイクアウトしている箇所に青丸、水平線で反発している箇所に緑丸を付けている。ITバブル時はブレイクアウト後の伸びが異常すぎて、すぐ下に再びブレイクアウトしてるが、ここは急すぎたため例外とみなすと、青丸はほぼ20年周期で観測されることが分かる。2021年ごろの山は1960年ごろと同程度で過剰ではないため、直近のブレイクアウトは2016年ごろに起こっていることを考えるとしばらくは下へのブレイクアウトは起こらないと考えられる。一方で水平線に注目すると、SP500の黒線と照らし合わせながら見ると、これより下に来ているときは基本的に買い場であり、下から上にぶつかる際に要注意となる。逆に上から下にぶつかる際は下にブレイクアウトしない限りは同様に買い場となる。向こう十年は下へのブレイクアウトは起こりにくいという仮説を信じれば、再び水平線にぶつかるあたりが買い場となるだろう。ただ、直近にもすでに一度上から下に反発してしまっているのでそこが絶好の買い場だった可能性も十分あり得るが。


2段目に物価に対する賃金および貯蓄の水準を表示している。
まずは紫の賃金/物価比から見てみると、非常に長い年月をかけて第一次オイルショック時の水準に戻ってきていることが分かる。
コロナでそれがオーバーシュートしてしまったせいで2022年初頭ぐらいまではその水準を超えてしまっていたようだ。やはりコロナ後は起こるべくしてインフレしていたようである。
直近のCPI発表ではしばらく落ち着いてきていた感があったが、この線を見るとどうもまた賃金が相対的に上がってきているようでインフレの再発を予感させる。もしくは1st OS時の値で反発か。ただしそれは不況を意味するが。
続いて緑の個人貯蓄/物価の線を見てみる。なおここで言う貯蓄とは、どれぐらい貯金がたまっているかということではなく、その時期その時期でどれぐらい給与を貯蓄に回しているかというのを示している。これを見ると過去非常に長いスパンで面白いぐらい物価と同水準で推移していたことが平坦性から読み取れる。そしてITバブル中とバブル崩壊からの回復中は少し調子に乗って貯蓄を減らしてしまったが、2008年のリーマンショック以降はなるべく貯蓄に回すようマインドが変わっていたようだ。それが2020年のコロナ以降、急激に貯蓄している場合ではなくなったことがこのチャートから読み取れる。
近年では丸印の2か所の下振れの後、株価下落の半ばぐらいで中立水準に戻り、その後に株価がさらに大きく下落している。2022年も久々に下振れが起こっており、これが何かのシグナルにならないことを祈っている。せっかく近年は貯蓄意識が高まっていたのに、数十年ぶりに来た高インフレに生活リズムが対応できていなかったようだ。今よりさらにインフレしていたオイルショック時代には給与も物価比で同水準ながら下振れしていなかったようなので慣れの問題のようだが。

続いて3段目に預金額の推移とその前年比を示している。
このグラフをパッと見ただけでもおかしな点に気づくだろう。預金額が観測史上初めて減少している(1994年は微小なので無視)。これはQTが影響しているのは間違いないであろうが、QTは2018年にも実施されており、そのころには十分にプラスを保っていた。それが今回は、上述の貯蓄の減少も相まってか銀行全体の預金額を減少させるほどの効果となっているようである。
先日3月17日のInvestopediaの記事で、もし半分の顧客が預金を引き出せば約200の銀行が破綻する可能性があると書いてあるのを見た。キャシー・ウッド氏がSVBやシグネチャー銀行の破綻の主犯はFRBだと主張していたのも案外的を射ているのかもしれない。
この預金額はコロナ時に極端に跳ね上がったままだったので、従来のトレンドに戻るまでもうしばらく減少が続きそうだが大丈夫だろうか。
この減少を止めてしまうと再度インフレ懸念が強まるので、一切の痛みを伴わない金融政策は不可能なのではと素人目には思えてくる。

最後にインフレ率と失業者数のグラフを見ておこう。
ここでは失業率ではなく、失業者数そのものを示した。その理由を述べておきたい。
まず図示していないがアメリカの人口は増え続けており、それにともない就業者数も増加している。それに対して失業者数は比例せずほぼ一定の水準で上下動している。失業率は
 失業率=失業者数/(就業者数+失業者数)
であらわされるため、失業者数の水準がほぼ一定である場合、就業者数が人口の増加とともに増えるのであれば、人口が増えるにつれて勝手に失業率は下がっていく。
そのため失業データを率で見るのは徐々に意味がなくなっていると考え、生値をそのまま見ることにした。
とは言うものの失業者数そのものも直近では非常に低い水準になっている。ただ改めてこのグラフを見ていて気付いたのは、失業者数が低く保たれている期間は全体を見ると極めて短いということである。
歴史的に見ても6M人くらいまで失業者数が減ると、決まって間もなく失業者数が増加していることが分かる。この水準を維持できるのはほぼ1年程度のようだ。
また面白いことに、程度の差はあれ、失業者数が底にくるぐらいのタイミングでインフレ率は増加し、追ってリセッションしていることも分かる。これが自然な景気サイクルのようだ。
今回はコロナが来たのでインフレとのタイミングが少しずれたものの、ご多分に漏れず同じ傾向となっている。
サイクル論的にこのような現象になるのは当然かもしれないが、数字の目安に気づけたのは個人的に収穫でだった。
見えている範囲では1953年と2006年を除いて、失業者数の増加を伴わずにインフレが収まったことはない。
そのため今回も、このままインフレが収まるなら失業者数が増えるという既定路線に乗りそうである。
ただ1968頃のように数年スパンの現象になることはあり得るかもしれない。だが個人的には連日の金融不安を考えると今回も短命で終わりそうな気がしている。
コメント:
当記事でグレーハッチでリセッションを表示した際は下記の3行だけのPineスクリプトを用いている。インジケータとして投稿するほどでもないのでコメントで載せておく。

indicator("リセッション")
REC = request.security("USRECM", "M", close) //NBER recession
bgcolor(color = REC ==1 ? color.new(color.black, 95): color.new(color.black, 100))
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