〔GRAPHIC〕米国債、逆イールドで短期ゾーンにより多くの資金が流入
今年の米国債は、短期債の方が長期債よりも多くの資金を集めている。長短金利水準の逆転(逆イールド)や、米連邦準備理事会(FRB)が引き締めをより長く続けようとしていることが、こうした異例の事態を生み出した。
FRBの積極的な利上げとタカ派姿勢を背景に、短期ゾーンの利回りは高止まり傾向が続き、1年債利回り (US1YT=RR)は足元で10年債を約1ポイント上回っている。
つまり投資家は、相対的な高利回りと引き換えに流動性が低めで、償還期限が長い国債をわざわざ買わずに済むという話だ。
モーニングスターのデータからは、残存1-6年の米中短期債ファンドへの1-8月の資金流入額が293億ドルで、昨年比70.3%も増加したことが分かる。
その半面、残存6年超の米国債ファンドへの流入額は369億ドルと、11.5%減少した。
ウィンスロップ・キャピタル・マネジメントのポートフォリオマネジャー、アダム・クーンズ氏は「短期債の絶対的な利回りは極めて魅力的だ。現段階で2年債利回りは5%を超えており、これは約20年来お目にかかれなかった。さらに2年債のリターンはS&P総合500種を3.5%上回っていて、それも20年ぶりのかい離幅となっている」と述べた。
LSEGリッパーのデータによると、米短期債ファンドは価格ベースで2.2%上昇し、平均で2.1%下がった長期債ファンドをアウトパフォームしている。
短期債ファンドのうち、iシェアーズ0-3カ月米国債上場投資信託(ETF) SGOVには今年約73億ドルが流入。SPDRブルームバーグ1-3カ月TビルETF
BILと、ウィズダムツリー変動金利米国債ファンド
USFRにはそれぞれ差し引きで21億ドルと44億ドルが流れ込んだ。この3本への合計流入額は、昨年を13.4%上回っている。
<当面流れ変わらずか>
ただ、長期債にも擁護派はいる。
テレマスのマット・ドミトリスジン最高投資責任者は「長期債を保有する主な理由は、現在の利回り(で得られる収入)を確保して将来の金利低下から身を守ることにある。また景気が悪化して利回りが下がる可能性へのヘッジともみなされる」と解説した。
大方の市場関係者は、しばらく短期債ファンドにより多くの資金が流入し続けると予想している。
ソーンバーグ・インベストメント・マネジメントのジェフ・クリンゲルホファー共同投資責任者は「早期利下げが適切との見方を否定する立場は変わらない。景気後退に陥らない限り、そうした状況になるとは思わない」と話す。
クリンゲルホファー氏は残存3.5年が最も適切な投資先とみなしており、もはや超低金利時代が終わった以上、たとえ深刻な景気後退に見舞われても長期債利回りは大幅に下がらないとの見方を示した。
とはいえ景気減速が進んでFRBが利下げに動く可能性は残る。そうしたリスクに対処するため、ウィンスロップのクーンズ氏が採用しているのは、イールドカーブの両端に投資する「バーベル戦略」だ。同氏の場合は、超短期ゾーンにポジションを構築した上で、3─9年ゾーンのポジションを圧縮ないし解消して、10-30年ゾーンに資金を振り向けるという形。金利感応度の観点で、中期債より長期債の方が妙味はあるという。