TradingViewを使ったファンダメンタル分析入門
ファンダメンタル分析は資産の真の価値を見極める分析手法です。この分析においては対象となる資産が割安/割高のどちらかということが関心の的になります。
TradingViewでファンダメンタル分析を行うとすれば、まず「株式スクリーナー」を使って企業の報告を分析して、それから「経済指標カレンダー」を追跡することになるでしょう。これに加えて定性的/定量的なアプローチを適用しながら、様々な規制の動向を注意深く監視します。ファンダメンタル分析の目的は、資産だけでなく企業そのものの価値を見積もることです。具体的には、企業の財務的な見通しや長期的な持続可能性を評価することになります。
目次:
- ファンダメンタル分析とは
- ファンダメンタル分析とテクニカル分析の比較
- トップダウン分析とボトムアップ分析
- 分析の3階層 ― 世界経済/業界/企業
- 定量分析と定性分析
- 財務諸表の分析
- 定性分析の二大要素
- 暗号資産のファンダメンタル分析
- ファンダメンタル分析のメリットとデメリット
- TradingViewのファンダメンタル分析ツール
ファンダメンタル分析とは
ファンダメンタル分析は投資分析の手法の一つで、企業や資産が過大評価されているのか、それとも過小評価されているのかを見極めるために使われます。
たとえば、株式が過小評価されている場合、その価格で買うと利益になる可能性が高いと見なされます。
一方、株式が過大評価されている場合、それはリスクが高く正当でない投資と考えられ、損失を招く可能性が高いと見なされます。
「良い企業」と定義されるためには、その企業が堅固な基盤(ファンダメンタル)を備えていて、どんな市況でも信頼され安定していることを証明する必要があります。具体的には、市場全体が成長しているときに高い利益をあげ、混乱期であっても競合他社よりも深刻な損失を回避する能力に優れていることが求められます。
資産の適正価値を判断する際にはミクロおよびマクロ経済データを分析します。グローバル市場の動向にはじまり、その企業の資本流入や業界内での成長可能性、あるいは企業の製品が現在の経済状況にどう結びついているかに至るまでが分析対象になります。
このとき使用される企業データは、通常は企業の決算報告書をもとにしたデータです。
損益計算書、貸借対照表(バランスシート)、キャッシュフロー計算書をもとに主要な財務指標を分析する財務諸表分析から企業の持続可能性を知ることができます。
これら3つの主要な財務報告書から、企業の収入・費用・負債および事業継続のための資金調達状況などについての分析材料が投資家や経営陣に提供されます。
つまり、これらの報告書は企業の財務状態の概要をすばやく把握したり、あるいはその内容を詳細に分析するために使用されます。
ファンダメンタル分析とテクニカル分析の比較
ファンダメンタル分析は企業から提供されるデータに基づいています。一方、テクニカル分析はチャート上に表示される取引所からのデータを使います。したがって、ファンダメンタル分析は非上場/上場企業の両方に適用できますが、テクニカル分析は上場企業の株式など過去に取引された履歴がある金融商品のみに適用されます。
トレードや投資において、これら2つのうちどちらの分析を意思決定の根拠にするかという問題は、結局のところ、企業の決算報告書か市場参加者の行動のどちらの情報源を信頼するかという問題に帰着します。
ファンダメンタル分析を選ぶ人は企業とその業績を信頼する傾向が強い一方で、テクニカル分析を選ぶ人は、市場参加者が企業の株式をどう評価するかという点に信を置く傾向があります。
以前はこれらのアプローチ双方の支持者の間で激しい議論が交わされていましたが、効率的市場仮説 (EMH) が注目を集めるにつれ、こうした議論の重要性が次第に薄れてきています。EMHでは利用できる情報のすべてが既に資産価格に織り込まれていると主張されており、ファンダメンタル分析やテクニカル分析によって市場から超過した利益を継続的に得ることはできないとされています。
EMHを支持する人たちは、市場参加者の状況を広範に捉えて平均的な市場リターンを受け入れようという目標を掲げており、これはテクニカル分析やファンダメンタル分析を行う人たちが「市場を打ち負かすこと」を目標とするのとは全く異なります。
今日では両方のアプローチを併用するトレーダーや投資家が多くなっています。なぜなら、両者は互いに補完し合うものだからです。ファンダメンタル分析は適切な資産の選択やその価格動向と適正な価格帯の判断に役立つ一方で、テクニカル分析はエントリー/決済ポイントを見極めるのに役立ちます。
分析の順序としては、最初にファンダメンタル分析を行ってからテクニカル分析を行うのが一般的です。
さらに詳しく知りたい場合は、ナレッジベースでテクニカル分析とは何か、どう活用するかについて調べてみましょう。
トップダウン分析とボトムアップ分析
この両者は、資産の価値を評価する2つの異なるアプローチを表しています。
トップダウンでは分析をマクロ経済レベルから始めます。たとえば、 GDPやインフレ率、金利などのグローバルな指標とその動向が分析の対象です。その次に分析対象を特定の国と業界に絞り込んで、最終的に堅固な基盤(ファンダメンタル)を備え、業界や市場を上回るパフォーマンスを発揮する可能性のある企業を見極めます。
これとは逆にボトムアップでは調査を単一の企業から始めます。その企業の財務諸表を分析し、経営陣や環境への取り組みなど事業のさまざまな側面を調査することになります。
ファンダメンタル分析としてはボトムアップのアプローチの方が一般的と言えます。ただし、トップダウンとボトムアップのいずれも企業の報告書に大きく依存しています。
たとえば、企業のEBITDAや売上総利益などの財務指標を分析することで、その企業に関する貴重な情報が得られます。こうした分析を行うことによって、様々な条件で企業の長期的な業績動向や持続可能性を把握できます。
トレードや投資において、多くの場合でこれらの方法は互いに補完し合います。トップダウンのアプローチをとると、その業界と地域に検索の範囲を絞らなければ知り得なかった企業を発見できるかもしれません。一方でボトムアップのアプローチをとれば、その企業への理解が深めることができるので、資金を投じる価値があるかどうかをうまく判断することが可能になります。
分析の3階層 ― 世界経済/業界/企業
これはトップダウン分析を構成する3つの階層です。将来有望な企業を探す際に従うべき手順を表しています。
トップダウン分析を行う際は、まず世界経済の分析から始めてグローバルなトレンドを把握します。最初に世界のインフレ率・失業率・ 政府債務対GDP比などを調査してから他のデータを確認し、それに続いて業界レベルに絞り込む調査を行います。
業界を分析する際には、その業界のライフサイクル・市場規模・成長可能性など多くの要因を吟味することになります。また、その業界内の企業同士が顧客や地理的地域をめぐってどのように競合しているかを比較することもあります。
またこの段階で、新規企業の参入や既存企業の繁栄が阻害される規制について広い範囲で情報収集を行います。
企業分析の段階では、その企業の財務諸表を分析して、自分が将来投資する資産の配分について適切な判断を下せるように必要な情報を集めます。
定量分析と定性分析
定量分析では企業の財務諸表から導き出された数値に基づいて投資戦略を立てます。中心となるのは種々の財務比率であり、企業自体やその製品群、経営陣にはそれほど関心が持たれません。
定性分析はこの正反対です。企業の長期的な目標、経営スタイルが与える影響、企業が遵守する倫理基準など、競合他社との位置付けや企業内での従業員の生活に大きな影響を与える要素に着目しますが、これらの主観的な情報を数値として表現するのは少なくとも現時点では不可能と言えます。
財務諸表の分析
財務諸表分析は、定量的なボトムアップのアプローチです。投資家や企業の経営陣によって行われる分析で、業績の評価や事業モデルとの整合性の確認はもちろん、将来の事業運営にあたり資金調達によって事業拡大できるかどうかまでが評価の対象となります。
IFRS(国際財務報告基準)とGAAP(一般に公正妥当と認められた会計原則)によって、企業が収入と費用を報告する際の主要ルールが定められています。
これらの2つの基準では、企業の事業運営における透明性と一貫性を確保する目的で財務諸表の構造が定義されています。また、損益計算書/貸借対照表(バランスシート)/キャッシュフロー計算書の構成要素も明確に定められています。
上場企業であれば厳格な報告要件を満たすために発生主義会計を採用する必要があります。一方、非上場企業であれば発生主義会計か現金主義会計のいずれかを選択できる柔軟性があります。
定性分析の二大要素
競争優位性
競争優位性分析の最終的な目的は、競合他社と比較してその企業に持続可能な競争優位性があるかどうかを判断することです。
競争優位性分析では様々なアプローチを用いて、企業が業界内でどのように位置付けられているかを評価します。たとえば、新規企業の参入に対する市場の障壁の高さや、その市場内での運営効率などが挙げられます。
また、企業の長期的な安定性や変化への対応能力に関する情報を得ることもできます。
競争優位性の分析には以下の特徴があります:
- ボトムアップ分析の採用
- 定性/定量分析の2つの観点から分析可能
- 企業/業界レベルの2つの分析を兼備
競合他社がないと思っているなら、それは探し方が足りないか、市場への理解が不足しているからです ― LinkedInの共同創業者でベンチャーキャピタリストでもあるリード・ホフマン氏はこのように述べました。
このファンダメンタル分析の本質を理解するにあたっては「ポーターの5つの力」と「経済の堀」の2つの理論がきわめて信頼度が高く、大変役に立ちます。
前者「ポーターの5つの力」は、その業界の魅力と利益性を評価するのに役立ちます。後者「経済の堀」は、ウォーレン・バフェットが提唱したもので、企業が競争の激しい環境の中でライバルから自身の事業を守る持続可能性と優位性を定義するのに役立ちます。
ビジネスモデル
ビジネスモデルとは、企業の利益創出の戦略やターゲットとする市場、成長を維持する上で必要な将来的な出費の見込みを説明するものです。
また、ビジネスモデルとは、あらゆるモデルを網羅したリストが既にあってそこから選択できるようなものでもありません — 潜在的にその数は無限です。なぜなら、新しい技術や新しいマーケットは絶えず出現し続けるからです。
どのビジネスモデルにも以下9つの要素(ブロック)があります:
- 顧客セグメント
- 価値提案
- チャネル(販路)
- 顧客との関係
- 収益の流れ
- 主要リソース
- 主要活動
- 主要パートナー
- コスト構造
これらの各要素は変更することができ、これによりモデルにも変化が生じます。
どんなビジネスにも独自のモデルがあり、中心となる顧客とその関係、あるいは流通チャネルなどの重要な要素が定義されています。ある企業が現在フォーカスしている事業領域を別の領域へと移す必要があるときには、これらの要素に細かな調整が加えられることがよく発生します。
たとえば、Netflixは当初ビデオレンタル事業としてスタートしましたが、後にストリーミングサービスを提供し始めることになりました。
上記の2つの理論 「ポーターの5つの力」と「経済の堀」は、現代のファンダメンタル分析において影響力のある戦略的フレームワークであり、業界の構造や企業の競争力を評価するために用いられます。
これらのフレームワークの両方を使って企業を分析すれば、その企業のビジネスモデルの長所や短所が明らかになり、事業の運営がビジネスモデルと一致しているかどうかを調べることができます。また、競合他社と将来性を比較したり、事業の潜在的な利益性も評価できます。
暗号資産のファンダメンタル分析
暗号資産のファンダメンタル分析には2つのタイプがあります — トークノミクスと評価フレームワークです。その他のマーケットと同じく、暗号資産も規制やニュースの影響を受けます。しかし、暗号資産はブロックチェーン上に分散されており、またブロックチェーンはウェブ分散型のオープンな台帳でもあるので、コインやトークンは従来の企業や株式とは違う方法で分析されます。
トークノミクス分析を行う場合は「暗号コインスクリーナー」のようなツールを使用して、 日次アクティブアドレス数や預かり資産 (TVL)、循環供給量などの独自の指標でコインに序列をつけます。
ファンダメンタル分析のメリットとデメリット
ファンダメンタル分析はすべて合理的に見えるかもしれません。企業の過小評価/過大評価という視点や多様なビジネスモデルがあり、原則となる会計のシステムや数多くの財務指標もあります。しかし「偉大なるものにはすべて呪いが伴う」というようにファンダメンタル分析はとても複雑で、おそらく完全に信頼できるものではありません。その理由を見ていきましょう。
まず第一に挙げられるのは、ファンダメンタル分析は過去のデータに依存しているので、そのデータを未来に投影する必要があるということです。これは変化が著しい現代世界の状況に対して古く不確実なデータを使用することにもなります。
第二に、企業の報告には透明性が完全には確保されていない可能性があるという認識が必要です。
第三は指標が多すぎることです。すべての指標の詳細を徹底的に分析した上で、完全に自信を持って意思決定を行うのはかなり困難です。
第四に分析に非常に多くのエネルギーを費やしてしまう点が挙げられます。
第五に、テクニカル分析とちがって、ファンダメンタル分析では投資判断に重要な役割を果たす市場心理が考慮されていません。
だからと言って、ファンダメンタル分析が機能しないというわけではありませんが、株式や企業を評価する際にあるルールの一群を選択すると、その状況下で特定の企業にあてはまっている他のルールを無視してしまう可能性があります。
また、貿易戦争のように構造的な変化が生じている時期に、戦略をそれに適応させずに再認するだけでは誤った結論を導くことになり、最終的に時間を無駄にする可能性があります — 特に、予想した変化が実現しない場合にそうしたことが起こります。
TradingViewのファンダメンタル分析ツール
先述のように、ファンダメンタル分析とテクニカル分析はよく組み合わせて使用されます。
TradingViewのインジケーターは、テクニカル分析の計算結果とファンダメンタルのデータをスーパーチャート上に直接表示できます。株価と合わせて財務データの表示も選択できるので、両方のアプローチを分析に組み込むことができます。
また、スーパーチャート上に決算発表・株式分割・配当報告などの企業イベントを表示することができます。
さらに、選択した銘柄の最新ニュースをタブを切り替えずに簡単に確認できます。
スーパーチャートの設定方法を知ると、ご自身の取引スタイルに合わせて様々な調整が可能になります。
経済指標カレンダーを使うと、世界経済に影響を与える直近のイベントや今後予定されているイベントを追跡できます。また、地域を特定して検索結果を絞り込むこともできます。
TradingViewニュースフローは急激な変化や企業活動へのすばやい対応をサポートします。
おわりに
ファンダメンタル分析は企業の過去の業績を評価して、市場に大きな変化が生じた時でも事業を継続できるかどうかを判断する際に用いられる主要な手法です。この手法は非上場企業と上場企業の両方に適用可能で、さらには暗号資産や上場投資信託 (ETF) など他の金融商品にも応用できます。
ファンダメンタル分析において財務諸表は主要な情報源になります。これらは企業が属する業界でのパフォーマンスを反映し、そのビジネスモデルが事業目標とどのように一致しているかを示します。
経営スタイルや企業文化の分析は、激しい競争下でも企業が存続して目標を達成できるかどうかを評価する際に役立ちます。
定性/定量の両データを使いながら企業の業績を評価し、将来の成長の可能性を予測します。
各種規制や競合他社の行動は、急激に変化する環境下で新たな技術が台頭する中、企業の事業運営に対して大きな影響を与える要因になります。これは製造プロセスや製品配送の最適化ができるかどうかに起因しています。
経済的に優位性を確立している企業は、安定した収益を追求する投資家にとって魅力的で安定した選択肢になります。