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日本の円買い介入、「長期戦」なら米国債の波乱に警戒

日本の円買い・ドル売り介入は、まだ米国債市場を揺るがしていないようだ。しかし、日本政府・日銀が、円のさらなる大幅下落を阻止するための「長期戦」へと引きずり込まれた場合、米国債にも波乱が生じかねない。

一般的に自国通貨の急激な、あるいは大幅な下落を食い止めたいと考える中銀が為替介入する際には外貨準備のドル建て資産を売却し、その資金で自国通貨を買い戻す。

専門家によると、財務省の委託を受けた日銀の円買いは、日銀が保有するドル預金が原資となり、その後に米短期国債(Tビル)を売却して穴埋めされる。

こうした動きは米国債市場への打撃を最小限に抑える。なぜなら残存年限が短い国債、特にTビルの売りは市場でより簡単に消化され、流動性の急縮小に対してより脆弱な残存年限が長い国債は影響を受けずに済むからだ。

日本は円買いに投入できるドル預金を潤沢に保有しているが、無尽蔵というわけではない。それが枯渇すれば、世界最大の米国債保有国である日本が中長期の米国債の売りに転じるかどうか、債券投資家は心配することになるかもしれない。

各種推計に基づくと日本は最大で1550億ドルのドル預金を保有している可能性がある。4月29日に実施したとみられる円買い介入では350億ドル、2022年9月と10月の計3日間では600億ドル超が使われたもようだ。

日本は円を支える上で必要になれば、米中長期国債売りに動く前にも、国内への資金還流の促進や金融引き締め、米連邦準備理事会(FRB)との通貨スワップ協定利用といった別の選択肢を検討する公算が大きい。

とはいえ米国債売却は、テールリスクと言える。

エグザンテ・データのマクロストラテジスト、シェクハー・ハリ・クマール氏は「日本の(ドル)売りは今のところ米国債市場に重圧をもたらしていない。だが財務省が外国為替市場との長い対決に入るという確率の低い展開が現実化すれば、米国債利回りにある程度の影響が波及する。それは特に2―5年ゾーンを中心に、イールドカーブの残りの部分にも広がっていく可能性がある」と述べた。

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Thomson ReutersJapan's holdings of U.S. Treasuries

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Thomson ReutersLikely intervention from Japan at 160.00 dollar/yen

<日本の存在感縮小>

日本は世界で最も多くの米国債を持っているものの、米国債市場における存在感は以前に比べると小さい。

米財務省のデータによると、日本は2月末時点で1兆1700億ドル相当の米国債を保有していた。日本の外貨準備高は1兆3000億ドルだ。

これらは数字としては大きい。ただ米国債市場で日本のプレゼンスは大きく縮小している。2004年8月は米国債発行残高全体の18.2%を保有していたが、足元では4%に過ぎない。

外国政府の米国債保有は全般的にも減ってきている。かつて14%だった中国の保有比率は3%未満になったほか、08年6月に過去最高の40%を記録した外国中銀全体の保有比率も14%に後退した。

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Thomson ReutersJapan's share of U.S. Treasuries market

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Thomson ReutersForeign central banks' share of U.S. Treasuries market

バークレイズのアナリストチームが指摘するように、以前は外国中銀が米国債市場の根幹を占めていたが、過去10年間の外貨準備高が12兆ドル前後でほとんど変化しない中で、彼らの米国債購入意欲は衰えてきている。

2月末時点で外国の公的機関が保有する米利付国債は約3兆5000億ドルで、Tビルは2660億ドル。合計3兆76600億ドルは、11年以降の保有額のレンジ(3兆6000億─4兆2000億ドル)の下限付近だ。

このような外国の公的機関の存在感が低下するのに伴って、米国債市場では外国の民間投資家の保有比率が高まり、現在はおよそ17%と過去15年前後で最も高い。

つまり買い手としては、「必要」があって買うので事実上は価格を意識しない外国中銀などに代わって、「選択的」に購入するので価格を重視する民間投資家が重要になってきている。

それが最終的に米国債にとって問題となってもおかしくない。

バークレイズのアナリストチームは4月30日付ノートに「外国中銀が再び外貨準備拡大路線に戻りそうにはない。どちらかと言えば米国で『より高い金利がより長く続く』ことが構造的なドル高につながり、新興国中銀は自国通貨防衛のために米国債を売らなければならないかもしれない」と記した。

一方で為替介入については、米国債市場に厄介な事態を招くのはよほどのレベルになってからだろう。具体的には日本や中国といった米国債の大口保有国が相当な規模の売りに動くか、複数の国から同時に売りが出てくるという事態が想定される。

日本が4月29日に行ったとみられる為替介入規模は350億ドル前後で、たとえその資金を全て米国債売りで賄ったとしても、25兆ドルの米国債市場にとっては「大海の一滴」にとどまる。

それでもドル安は一時的であるばかりか、過去の経緯を踏まえると、日本の介入が1日で終わったケースは滅多にない。日本政府が近くまた介入するかもしれず、債券投資家は状況を注視することになる。

*コラムの内容は執筆時の情報に基づいています。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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