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〔BREAKINGVIEWS〕関税引き上げは悪手、窮地に立つバイデン氏の対中政策

自動車レースで自分の車のアクセルを十分に踏み込めない時、あなたはどうするか。バイデン米大統領の政権にとってその答えは、競争相手の走路に障害物を置くことだ。ホワイトハウスは14日、中国の幅広い輸入品に対する関税を大幅に引き上げると発表した。例えば電気自動車(EV)の税率は従来の4倍の100%になる。ただこうした政策を推進するのは米国にとって逆効果になりかねない。

対中関税引き上げの対象は、鉄鋼製品や電池などにも及ぶ。これはトランプ前政権時代に、中国が米企業から技術を移転ないし窃取し、資金をつぎ込んで生産した製品を世界中の市場にあふれさせていると結論づけた調査に基づいた措置だ。ホワイトハウスの説明によれば、関税引き上げで競争環境を公平に戻せる。

米国が国内のEV生産を奨励するため自ら保護的な関税制度と補助金を導入してきたことに同盟諸国は不信のまなざしを向けてきたが、政府の助成措置で国内市場をてこ入れする手法は、まさに中国の戦略と一致する。戦略国際問題研究所(CSIS)の分析では、中国政府は2021年までに自国産業育成のために約1300億ドルを投じてきた。

中国はそうした投資が功を奏し、さまざまな分野で簡単に他国が巻き返せないほどの優位を築き上げている。それは今年第1・四半期の中国のEV輸出額が80億ドルに達し、重要な電池素材の精製で世界シェアの60─90%を握っているというだけにとどまらない。技術的に先行し、電池関連の新規特許を支配しているほか、ナトリウムイオンなど新たな電池素材の開発にも進出している。

一方で米国の取り組みはもたついた状態だ。フォード・モーター Fとゼネラル・モーターズ(GM) GMはEV生産目標を引き下げ、22年半ば以降のEV販売は横ばいが続く。EV市場で世界をリードしてきたテスラ TSLAの成長も急激に鈍化しつつある。さらに悪いことに、米国の充電インフラは、急速充電設備の3分の2近くを運営するテスラに左右されてしまう。そのテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は最近、充電部門の従業員を解雇したばかりで、予測不能の行動で知られるマスク氏が、バイデン氏のEV普及戦略の柱になっているという何とも不安定な構図だ。

そこでタカ派路線に転換するのは、調和の取れた対策とは程遠い。与党民主党の上院議員は、クリーンエネルギー車の販売促進のために電池補助金の規制や温室効果ガス排出量の基準を撤廃したがっている。同時に鉄鋼労組の歓心を得ようとしているバイデン政権は、自動車向け鉄鋼製品メーカー大手のM&Aに介入しており、自動車メーカーにとって悲惨な結果を招く恐れが出てきている。

おまけに中国企業が米国の高額な関税を避け、メキシコ経由で製品を流入させるリスクは残される。コネクテッドカー(つながる車)を巡る安全保障上の調査を通じて、自動運転技術から中国製センサーを完全に排除することはできるだろう。だが中国のサプライチェーン(供給網)全体を切り離すのは全く別のずっと難しい作業であり、よりによって選挙の年に米国民へコストを転嫁する危険を伴う。安価で先進的な中国の技術を利用しなければ、米国のEVは割高でニッチな製品にとどまる。このように数々の課題が山積し、バイデン氏の対中政策は窮地に立たされているように見える。

●背景となるニュース

*バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導体など

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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